「日本は太平洋戦争に敗れはしたが、
 そのかわり
 何ものにもかえ難いものを得た。

 これは、
 世界のどんな国も真似のできない
 特別特攻隊である。

 スターリン主義者たちにせよ
 ナチ党員たちにせよ、
 結局は権力を手に入れるための
 行動であった。

 日本の特別特攻隊員たちは
 ファナチックだったろうか。

 断じて違う。

 彼らには県勢欲とか名誉欲などは
 かけらもなかった。

 祖国を憂える
 貴い熱情があるだけだった。

 代償を求めない純粋な行為、
 そこにこそ真の偉大さがあり、
 逆上と紙一重のファナチズムとは
 根本的に異質である。

 人間はいつでも、
 偉大さへの志向を
 失ってはならないのだ。

 戦後にフランスの大臣として
 はじめて日本を訪れたとき、
 私はそのことをとくに
 陛下に申し上げておいた。

 フランスはデカルトを生んだ
 合理主義の国である。

 フランス人のなかには、
 特別特攻隊の出撃機数と
 戦果を比較して、
 こんなに少なくない撃沈数なのに
 なぜ若い命をと、
 疑問を抱く者もいる。

 そういう人たちに、
 私はいつもいってやる。

『母や姉や妻の生命が
 危険にさらされるとき、
 自分が殺られると承知で
 暴漢に立ち向かうのが
 息子の、
 弟の、
 夫の道である。

 愛する者が殺められるのを
 だまって
 見過ごせるものだろうか?』

 私は、
 祖国と家族を想う一念から
 恐怖も生への執着も
 すべて乗り越えて、
 いさぎよく敵艦に体当たりをした
 特別特攻隊員の精神と行為のなかに
 男の崇高な
 美学を見るのである」

二十世紀の思想を代表する
フランスの文人アンドレ・マルローは
こういうと
底に視線を落としたまま
しばし瞑目した。