乃木将軍は、

「今日はまず
 迪宮殿下に申し上げます。

 今更申し上げるまでもないことで
 ありますが、
 皇太子となられました以上は、
 いっそうのお勉強を
 お願い致します」

と話しはじめ

殿下に諄々と注意すべき事項を
申し上げました。

その上で「中朝事実」
朱を入れたものを差し上げて、

「私がふだん愛読しております
 書物を殿下に差し上げたいと思いまして
 ここに持って参りました

 いまに御成長になったら、
 これをよくお読みになって頂きたい」

とお願いしました。

「中朝事実」とは、
江戸時代初期の儒学者、
山鹿素行による
万世一系の天皇を頂く日本こそ
中朝であり、
皇室を中心とした
日本の政治的伝統を
解き明かしたものでありました。

乃木大将の態度が
いつもと違っているのに気付かれて

「院長閣下はどっかへ行かれるのですか」

とお聞きになられた。

この時、
皇太子(昭和天皇)へお渡しした
「中朝事実」
乃木大将が写本したものでした。

乃木大将が幼少の頃、
父・希次から筆写して贈られたのが
「中朝事実」でした。

乃木大将はこの「中朝事実」
生涯の座右の銘とし、
戦場に赴くときは必ず肌身離さず
携行していたと言います。